話し合い活動ときりん組の人形劇

2009 年 8 月 4 日

k-1 この実践記録は、2009年8月1日・2日、伊豆長岡で開かれた第47回全国幼年教育研究集会の「保育園・幼稚園・小学校のつながりと豊かな学び」分科会で、子どものその金室陽子先生が報告した要旨です。子どものプライバシーに関わるため割愛したところがあります。 

       子どものその(5歳児) 金室 陽子

□ はじめに 

 子どものそのは、周りを田んぼに囲まれ、近くには新河岸川が流れる自然環境豊かな場所にあります。
 保育内容は、あそびの中で育つことを大切にし、「何にでも興味を持ち、失敗を恐れないで挑戦しようとする子ども」「集団であそぶことの楽しさがわかり、みんなと一緒にやり遂げた喜び、感動を共有できる子ども」「自然の中で体を動かしてあそび、季節の移り変わりや自然の不思議にふれ、豊かな感情や感性を育む子ども」「友だちとしゃべりまくって遊び、豊かな話しことばを育て、しっかり自己主張しながら、人とつながって生きていく子ども」を目標に保育を行なっている園です。
 年長組は毎年11月になると人形劇の活動に取り組みます。「どんな人形劇をするのか」という題材決めに始まり、役決め、人形作り、せりふづくり、演じること、大道具や小道具作りなどなどたくさんの過程を子どもたちと話し合いながら、およそ1ヶ月あまりかけて取り組んでいきます。子どもたちにとって人形劇は、小さいときから観る機会が多くあり(お母さん人形劇サークルの公演・人形劇団プークの観劇会・埼玉大学児童文化研究会の公演など)、普段のごっこあそびでも「人形劇ごっこ」が自然に始まるとても身近な遊び(活動)です。また、年長組になると人形劇に取りくむことが伝統になっているので、子どもたちはとても楽しみにしているのです。でも、初めて年長組担任になった私は、どきどきでした.

□ きりん組の様子 

 男児 13名 女児 15名の28人のクラスです。担任は1人。年中組からクラスの友だちは変わらず、担任だけが替わります。k-01
 1学期、憧れていた大きい組になれたことが嬉しくて、はりきって生活を楽しんでいました。「大きい組だから」「大きい組だけ」が嬉しくて喜んでいました。追いかけっこやじゃれつきあそびをたくさんしたり、ドンジャン・丸おに・じゃんけん列車などの集団遊びが盛り上がりました。5月末の山登りでは、沼の主のところを捕まらずにどう通るかクラスで作戦をたて、無事登り終えた達成感を味わいました。そして家族と1日離れて過ごす合宿などの行事を経験するなかで大きい組らしくなってきました。また、合宿の取組みでは、いろいろな話し合いがあり、その中で普段あまり主張しないような子どもたちが、“譲らない”と自分の思いを出していたように思います。
 2学期、勝ち負けや1番にこだわる子どもが多いきりん組は、運動会の取り組みのなかで、はじめは「○○のせいで負けた」と友だちを責めることも少なくありませんでした。しかし、練習をしたり話をしていくなかで「○○ちゃんが速くなった」「△△くんがふざけなくなった」など一人ひとりの頑張りを、クラスの仲間が認めてくれたり、とび箱が飛べない子に手取り足取り教えてあげる姿も見られました。友だちに認められ運動会を乗り越えたことで自信になり、友だち関係も広がってきました。

□   題材決め(10月27日~11月4日)

 10月下旬頃から担任が意識的に人形劇に向きそうな絵本を読み聞かせてきました。どんな人形劇をやりたいか聞くと『かにむかし』『ももたろう』『ブレーメンの音楽隊』『三枚のおふだ』『かちかち山』『三びきのこぶた』『ふるやのもり』と7冊の絵本があがりました。それぞれを劇ごっこやぺプサートで演じたり話し合った結果『かにむかし』か『かちかち山』の2つに意見は分かれました。それぞれに分かれて、絵本を見ておもしろいというところを発表しあいました。

  かにむかし
・  最後、さるがぺちゃんこになるところがおもしろい
・  牛のふんがおもしろい
・  はぜ棒がおもしろい
・  さるとお母さんがにのやりとりがおもしろい
・  お母さんがにが木から落ちるところ
・  石うすが落ちて、さるの鼻から何か出てるところ
・  「ちょんぎるぞ」がおもしろい
・  さるのばんばで子がにがさるにガシャガシャ登るところ

  かちかち山
・  たぬきがやけどして、「ウオー」ってなるところがおもしろい
・  たぬきが太っているところ
・  たぬきが欲張りなところ
・  たぬきが最後、どろ舟で沈んじゃうところ
・  たぬきがやけどして川で冷やすところ

k-02 発表を聞いて『かにむかし』に移る子や『かちかち山』に移る子もいましたが、どんどん『かにむかし』が増えていき、他のクラスが「決まったー!」とベランダを走っている姿を見て「ゆずらない」と言い張っていた子も『かにむかし』でいいよとゆずってくれました。『かちかち山』はたぬき役ばかりが注目され、うさぎ役やおじいさん・おばあさん役のイメージが見出せなかったのではないでしょうか。その分『かにむかし』は、いろいろな役にそれぞれのおもしろさがあることを見出せたようでした。 どんな人形劇がやりたいか問いかけてから1週間以上かかってやっと題材が決まると、大喜びでベランダに出て他のクラスに報告に行ったのでした。

□   役決め (11月5日) 

 役を決める前に、それぞれの役がどんなキャラクターなのか出し合ってみました。
 C:お母さんがには、やさしい
 C:子がにはさるのばんばにあだ討ちに行くから強い
 C:さるは、お母さんがにをだまして、木に登って柿を食べて、青い柿をお母さんがにに投げて殺しちゃったからいじわるk-03
 C:悪いやつ
 C:ぱんぱんぐりは子がにの仲間になってくれたから優しい
 T:ハチは?
 C:ハチも子がにの仲間になってくれたから優しい
 T:牛のふんは?
 C:おんなじ
 T:はぜ棒も石うすも?
 C:おんなじ
 T:そっかー。じゃあどうして、ぱんぱんぐりやハチや牛のふん、はぜ棒、石うすは子がにの仲間になったのかな?
 C:子がにから、さるにお母さんがにが殺された話を聞いて、悪いやつだと思ったからじゃない?!

 子どもたちは、普段友だちが泣いていると、その子の話を聞いて味方になり、泣かせた子に「どうしてやったんだ」と怒ったりします。そんな子どもたちの日々の生活の中での経験をイメージしているのではないでしょうか。でも、思ったより意見が少なく、セリフを作りながら深めていくことにしました。
 役は8役もあるし偏りがありました。ぱんぱんぐりが一番多く、さるとお母さんがには誰もいませんでした。
 T:誰かがやらないと『かにむかし』の人形劇はできないんだよ
 C:じゃあ、先生がやってよ
 T:人形劇は、先生はやらないよ。だってきりん組の人形劇だし先生はみんなが困ったときに助けてあげるからね
 C:じゃあ、さるになるよ(と5~6人の子が名乗りを上げてくれました)
 C:お母さんがにやる
 友だちが移ると自分も…と移ったり、ちょうど良い人数なのに変わったりと簡単に移ってしまう様子も伺え、それぞれのキャラクターが話し込めていないからかなあと思いました。最後まで決まらなかったのが、お母さんがにの役。S子ちゃんが先に「やってもいいよ」と言ってくれていました。あと1~2人は必要でした。
 T:誰かS子ちゃんと一緒にお母さんがにやってくれない?
 C:…(シーン)
 M子:M子やってあげる
 ぱんぱんぐりから一度も移動しなかったM子ちゃんが、お母さんがにに立候補してくれたのでした。びっくりしました。
 T:本当に?いいの?Mちゃん?!
 M子:うん
 C:ヤッター!決まった。Mちゃんありがとう!
 M子ちゃんが引き受けてくれたことと役が決まったことで子どもたちは嬉しくて拍手が起きました。M子ちゃんは、人前に出ることが苦手で恥ずかしがりの子です。ふだんのごっこは大好きでお母さん役をよくやっていましたが、お母さんがには、セリフも多く難しい役。M子ちゃんが引き受けてくれたことに驚きました。

k-04□ 紙粘土をつける… 牛のふんには顔はある? (11月11日)

 自分たちで一から作った紙粘土を新聞紙を丸めた土台につけていきます。このときに目や口などの凹凸もつけていきます。『かにむかし』に出てくる登場人物は実際は目や口がないものばかりですが、はぜ棒、ぱんぱんぐり、石うすには絵本の絵に目や口がついているので、つけることになりました。「牛のふんに顔がないのがおもしろい」と言っていた子どもたち。
 T:本当についてない?
 グループごとに頭をくっつけて絵本をめくりながらジーっと見ます。
 C:ついてないよ
 C:裏にあるんじゃないの
 C:黒いから見えないんだよ
 C:あ、くちびるがあった!
 C:えー! どこどこ?
 C:ほらここだよk-05
 C:ほんとうだ、これくちびるだよ
 C:目もあったよ
 C:えっどこ?
 C:ほらここだよ
 C:茶色の目だ
 どうやら子どもたちには、目や口が見えたようです。

   □ うたう?うたわない?

 T:どうやって人形劇が始まるかっていうとね、最初はカーテンが閉まっててね、カーテンの向こう側にお客さんがいっぱいいるの。で、みんなはカーテンの下でシーって静かにしてるんだよ。それでカーテンが開いてから、いよいよみんなの人形劇が始まるんだよ。何ていってカーテン開ける?
 C:人形劇が始まるよーk-06
 C:もういいかいってお客さんに聞く
 C:♪これから~のうたをうたう
 ぬいぐるみなどを使って人形劇ごっこをよくやっていた子どもたちは、お母さん人形劇サークルが公演のときに歌う♪人形劇が始まるよ~♪の歌をよく歌っていました。劇ごっこのときも、歌から楽しんでいました。『人形劇=歌を歌ってから始まる』ということが定着している子どもたちが多かったように思います。だから歌を歌いたいという意見が一番多かったのです。そんな中、
 AK:絶対に歌いたくない
 T:なんで?
 AK:だって恥ずかしいから
 T:え、でも人形劇で声だすんだよ
 AK:それは恥ずかしくないけど、歌は恥ずかしいからやだ
 T:そっか。じゃあ歌いたい人たちはなんで歌いたいの?
 RとK:うたうと楽しいし聞いている人たちもこれからどんな人形劇が始まるのか楽しみになると思う
k-07 きっとこの意見はいつも自分たちが観て、聞いてそう思っていたのだと思います。観る側だったのが演じる側になることで、観る側の気持ちも考えているのではないでしょうか。この意見を聞いて、ずいぶんとうたう側に子どもたちが移りました。この時点で22人対4人(休み2人)。多数決で決めてしまえばすぐに決まることですが、やっぱりきりん組の人形劇。全員が納得して、楽しんでやって欲しいのです。その日は決まらず、後日どうすると?と再び問いかけてみると、
 K:だったら合体しようよ。うたをうたったあとに、もういいかいって聞くのはどう?
 C:いいねえ
 AK:それならいいよ
 28人全員が大賛成してくれてうたをうたって「もういいかい」とお客さんに聞いてからカーテンが開いて人形劇が始まることに決まりました。

 □ せりふづくり (11月13日~21日)

 子どもたちは、せりふといっても何のことだかわかりません。
 T:せりふって言うのはね、お母さんがにやぱんぱんぐりがしゃべっているところのことをいうんだよ。だから例えば「かにどんかにどんどこへいく」ってぱんぱんぐりがせりふを言うと
 C:さるのばんばへあだうちに
 T:腰につけているのは そりゃなんだ?
 C:日本一のきびだんご
 T:いっちょくだはり なかまになろう
 C:なかまになるなら やろうたい
 と、スムーズに子どもたちが大好きな問答が始まりました。
 T:そうそう!そうやって話していることをせりふって言うんだよ。まずは最初、『かにむかし』ってどうなるんだっけ?
 C:お母さんがにがしお汲みに行く!
 T:そうだよね。でもさあ、しお汲みって何のこと?
 C:しおを汲むことだよ
 C:かにはしおが好きなんだよ
 C:泡を吹くためにしおは必要なんだよ
 T:そうなんだ。じゃあ何でかにはしおが好きなのかな
 C:だってかにって海に住んでるから、しょっぱいのが好きなんだよ
 T:他には何がすきなのかな
 C:煮干
 C:おにぎり
 C:お肉
 D:肉は食べないよ
 T:この絵本には、柿が大好きであるって書いてあるんだけど…
 C:えっ、うそー見せて(絵本に群がる子どもたち)
 C:本当だ!
 C:D、かにって柿食べるの?
 D:???(Dくんは虫が大好きなので虫のことなら何でも知っています)
 C:甘いから好きなのかなあ
 C:けど、しょっぱいのが好きなんでしょ
 C:そっかあ…
 S子:そういう絵本なんじゃないの
 あっさりとしたこの一言で次の話へ

 T:みんなの頭の中で想像してみてね。舞台におかあさんが出てきました。何もしゃべらないで歩いていたら、お客さんはしお汲みに行ってるってわかる?
 C:わからない
 T:だよね。じゃあお母さんがにが何かしゃべるといいよね。お母さんがにがなんて言ったらお客さんが「ああしお汲みに行ってるんだなあ」ってわかるかな
 C:しお汲みに行きます
 C:しお汲みに行ってきまーす
 T:それって誰に言ってるの
 C:子がに
 T:え、でも子がにってどこにいるの
 C:あー、まだおなかの中だ。
 C:じゃあおなかの中に行ってきまーすって言う
 C:ついてきちゃうじゃん
 と数人の子たちが実演して大笑いしました。けれどどうしたらいいのか困っていると
 K:わかった!「おらしお汲みにいくぜ!」は?
 きっと、昔話みたいに“おら”と使いたかったのですが、笑いが起きてしまいました。
 T:みんなのお母さんなら何て言う?
 C:いってきまーす。あ…これじゃあさっきと一緒だ
 子どもたちがイメージしているのは、会話なんだと思います。会話だと「○○へ行ってきます」「行ってらっしゃい」のやり取りがありますが、ここではそうはいきません。その後もいろいろやりとりして話し合っていくうちに「しお汲みに行こう」に決まりました。歩くときも、無言で歩くと何をしているのかわからないので「がしゃがしゃ」とせりふがでてきました。
 T:どのくらいがしゃがしゃって歩くの?
 C:ちょっと見せて
 絵本をよーく見る子どもたち。山の脇に海があることに気がつき
 C:海まで近いからあんまり歩かなくていいんじゃない
 T:それで海まで行く途中で何かを拾ったんだよね
 C:柿のたね
 C:これはこれはええもの見つけた
 C:がしゃがしゃ
 その後の水や肥やしをあげたり、柿の木とのやりとりは、絵本にせりふもあるのでスムーズに進みました。柿の芽や木、柿の実などの「ちょんぎられては たまらん」などのせりふができました。

k-12※ 別の日

 人形劇サークルのお母さんたちにお願いして、舞台の幕をとっぱらった丸見え人形劇を観せてもらいました。人形がどう動いているのか、どんな動きをするのか、どこから出てくるのかなど見ることができて、イメージしやすくなり、せりふ作りも盛り上がっていきました。また長く休んでいたH子ちゃんが登園したので、初めから復習していきました。すると「ここ、こうしたほうが良くない?」「なんか変だよね」などと直しが入りました。
 AK:やっぱり海まで遠いんじゃない?だって、かにの家はこのページにはないよ。ずっと歩いてきて海の近くまで来たところで、柿の種を見つけたんだよ。
 C:ああ~そうかあ
 T:どうやって海まで遠いことをお客さんにわかってもらう?
 C:がしゃがしゃがしゃがしゃ…ってずっと歩いてる(と実演)
 C:それじゃあ長くて終わらないよ
 C:かにの家を遠くに描く
 C:途中で「疲れたなあ」って休憩する
 C:遠いなあってせりふにしたら?
 結局「海まで遠くて疲れたわ」に決まりました。語尾の「わ」はお母さんということを意識しているのです。
 柿の種を見つけたとき、「これはこれは ええものみつけた」のところで「これは」だとお客さんに何のことだかわからないので、変えることになりました。
 T:これって何
 C:柿の種
 T:そうだよね。じゃあそれをせりふに入れてみようよ
 C:あ、柿の種だわk-08
 K:あったわ、柿の種だわ
 ここでも語尾を意識していました。一文字一文字意識していくことでイメージがわき、自分たちの人形劇ができていくのです。

※ お父さんがには?

 どこから始まったのか、そういえばお父さんがには?と話題になりました。家にいるんじゃないかという考えはなく、
 C:お父さんがにもさるに殺された
 C:さるに柿を投げられてぺしゃんこになった
 C:さるが後ろからたたいて…
 など、いろいろ出ましたが、どれもさるにやられています。相当悪いさるのイメージです。

※ お母さんがにはどんな声?

 T:お母さんがにってどんな声かな?
 あまりお母さんのキャラクターが出てこなかったので、イメージをふくらまそうと問いかけてみました。
 C:お母さんみたいな声
 T:それってどんな声?
 それぞれ声を出してやってみますが、聞こえてくる声は怖そうな声ばかり。
 T:えー、何でそんな声なの?
 R:だっていつも怒ってるもん
 C:うちもー(とあちこちから共感の声)
 T:そっか。みんなのお母さんは1人とか2人とかの子どもでも大変なんだね。でもお母さんがには、こ-んなにたくさん子どもがいるんだから、もっと大変だよね。でもさあ、もう子どもって生まれてるかな
 C:あ、まだだ!
 I:うちのママは、かなちゃん(妹)が生まれる前は、怒らなかったよ
 C:うちも、そう!
 ここでも共感者多数。生まれてくる前なので、優しい声のお母さんがにになりました。

※ だって仲間がいるから!k-09

 お母さんがにがぺしゃんこにつぶされてしまい、子がにが出てきて「えーんえーん」と泣いて、きび団子を「コロコロ」と作ることになりました。
 T:もし、みんなのお母さんがぺしゃんこにされたらどうする?
 C:あだ討ちに行く!
 C:絶対に行く!
 T:そうだよね。みんなの大好きなお母さんだもんね。でもさあ、この子がにって何歳ぐらいかな?
 C:生まれたばっかりだから0歳じゃないの?
 C:歩けるから1歳ぐらいじゃないの?
 T:すごいよね。0歳とか1歳なのにあだ討ちに行くなんて。何で行けたのかな
 CT:だって仲間がいるから!
 なんだかまるで自分たちと一緒と言ってるかのような雰囲気でした。

※ せりふづくりや話し合いの中の子どもたち

 こんなふうにまとめて書くと、話し合いがスムーズに進んでいるように思いますが、実際はそうではありません。確かにいろいろな意見が出ますが、全員から出るわけではありません。ふらふらしていたり、友だちとふざけて聞いてないこともあるので、声を大きくしたり集中するような声かけもしました。やはり、担任の近くのほうが集中しやすいので、役ごとに順番に近くになるよう促しました。
 意見を出してくれる子は、だいたい決まっているので、あまり言わない子がボソッと言うとそのことは必ず全体に返してあげました。また、話し合い中に意見を出せなかった子に対して、個々にどう思う?など声をかけるようにしていきました。やがて話し合い中にふらふらしたりふざけていても、ちゃんと友だちの意見を聞いているようになりました。大事なところは、給食のときにもう一度話をすることでよく聞き、全体のものになったと思います。

□     お母さんがに、いやなんだ 一方、せりふづくりの期間のM子ちゃんの様子に変化がありました。保育室でさよならをしたのに、何か理由をつけて部屋を出たがらなかったり、バスが来ているのに「帰りたくない」「先生がいい」と大泣きで離れなくて無理やりバスに乗せたりもしました。動物が好きなM子ちゃんは、うさぎを抱っこしてバイバイすることですんなりバスに乗って笑顔で帰るようになりました。そんな日が一週間くらい続きました。
 M子ちゃんは、お母さんがにの役になったものの、イスをがたがたさせたり、机の下にもぐっていたりと落ち着きがなく、せりふづくりに気持ちが向いていないように思えました。それでも、M子ちゃんに声をかけたり、担任の近くに座らせたりと気にかけていきました。せりふづくりより気持ちが向いたのは、人形作りでした。絵を描くのが好きなM子ちゃんは、丁寧に人形を作り、かにの色や表情など集中して楽しんでやっていました。人形に服がついて出来上がると大喜びして、人形を手にはめていました。毎朝登園すると、人形を片手にはめてYちゃん、Rちゃん、Iちゃんたちと人形劇ごっこや人形を使っておうちごっこなどをして遊んでいました。
 さて、部屋で練習が始まりました。やりたい子だけでやってみて、お客さんになりたい子は観る事にしました。M子ちゃんは、まずお客さんになり、劇を観て楽しんでいました。その時はS子ちゃんがひとりでお母さんがにをやりました。次にM子ちゃんもやろうと舞台のほうへ行きました。
 S子:今度は観ていたい
 T:そうかあ。M子ちゃん一人でできる?
 M子:(首を振る)
 T:S子ちゃん一緒にやってあげてくれない?M子ちゃん一人じゃできないんだって
 S子:やだ
 そんなやり取りをしているうちにM子ちゃんが、押入れの隅でしくしく泣いていました。みんなは早くやりたくて「早くー」と騒いでいました。M子ちゃんに『かにむかし』の劇は、お母さんがにがいないと始まらないこと、大切な役でありM子ちゃんが必要なんだよと話しました。何とか泣き止んだもののその時はやることはできず、S子ちゃんがもう一度やり、M子ちゃんは私のひざの上で、劇を観ていました。
 本番の人形劇は2チームに分かれて演じます。S子ちゃんは一人でやりたいと主張しましたが、M子ちゃんは一人ではできないともじもじ。S子ちゃんにお願いして2人で両方に出ることに決まりました。お母さんがにの役は、せりふも多く難しい役で大切な役だということをクラスのみんなにも伝え、お助けマンよろしくね!とお願いしていました。お母さんがにだけではなく、他の役もすべてきりん組全員のものにして欲しいという思いもあり、せりふを全員で読んで練習するようにしていきました。


 

□ 本番は大成功 (12/6k-10)

 M子ちゃんは、「大丈夫だよ」「平気だよ」と担任が声をかけたり、友だちから「自己紹介が上手だった」などとほめてもらったり、他のクラスの先生たちからもほめてもらい少しずつ自信がついてきました。初めは、小さな声で、S子ちゃんの言葉の語尾を言う程度でしたが、練習を重ねてほめられるごとに、自信がついてきて時にはS子ちゃんをリードするようなこともありました。2人ともなかなか覚えられないお母さんがにのせりふでしたが、それを支えてくれたのはクラスの仲間たちでした。中でも柿の芽の役の子たちは、M子ちゃんの近くにいて小さな声でフォローしてくれました。     本番前日、M子ちゃんのうちに電話したときわかったのですが、はじめの頃は「お母さんがにいやなんだ…」と話していたそうです。でも、この頃には、家でも人形劇の練習を楽しそうにしているとのことでした。上り調子だったM子ちゃん。本番もよく声が出ていて、楽しんでお母さんがにを演じていました。自己紹介のときのM子ちゃんは、恥ずかしそうにはしていたものの、やり遂げて誇らしげな表情でした。当日は、お父さんが見に来てくれて「よく声がきこえたよ」とM子ちゃんのことをいっぱいほめてくれていました。

□ 人形劇を終えて 

 M子ちゃんは、人形劇の活動を通して自信をつけたように思います。自分から友だちと積極的に関わるようになりました。中でも人形作りが楽しかったM子ちゃんは、人形が出来上がると本当に嬉しくて、登園すれば人形を手に取るほどでしたk-11。人形劇の発表のあとも友だちと劇ごっこを楽しんでいました。ごっこの好きなYちゃん、Rちゃん、Nちゃん、Hちゃん、S子ちゃんたちと遊ぶ姿を見るようになりました。特にYちゃんとは一番気があったようで、常に一緒にいるようになり、けんかもできるようになりました。
 そして、運動会でとべなかったとび箱も、とび箱がないときはピアノのイスを代わりにしてYちゃんやRちゃんたちと一緒にとんでいました。タイヤとびもじょうずにとべるようになり、「これならもしかするととび箱をとび越すことができるかも!とばしてあげたい!」と思い、12月22日にきりん組でとび箱を久しぶりに出してみました。M子ちゃんの番になると「M子!M子!」のコールが起こりました。2~3回おしりを着いたあと、3段横のとび箱をとび越すことができました。「M子すごい!」「やったね!!」と自然と拍手が、きりん組の子どもたちからおこりました。

□ 人形劇で大切にしてきたこと

 私が一番大切にしたかったことは、きりん組28人全員の人形劇にすることでした。各役の中だけで話し合うのではなく、一つの役のことを全員で考えながらきりん組の『かにむかし』をつくっていきました。その中では28人が初めから同じ意見ではありません。意見がぶつかってなかなか決まらず平行線も続いたりしました。多数決ではなく28人全員が納得できるように話し合ってきました。決まらないときは焦らず別の日に決めることもありました。クラスの仲間全員で、「あーじゃない?こーじゃない?」などさまざまなことを話し合っていくうちにみんなの共通理解になったと思います。
 また、そんなふうに一から自分たちでつくりあげていった人形劇を演じだすと、友だちのせりふを教えてあげたり、次に誰が出るのか教えてあげたり…と友だちを助けている姿もありました。一つの人形劇をつくりあげていく中で、仲間意識も育っていきました。同じ役の子たちが顔を見合わせて「せーの!」とタイミングをはかったり、次の人形が出るタイミングを見はからったりしている姿もありました。
 『かにむかし』の子がにたちを自分たちに置き換えて考えていた子どもたち。自分たちも山登りや合宿・運動会などを一緒に乗り越え、時にはけんかもして楽しいことをいっぱいし、たっぷり遊んだ仲間がいます。まるで自分たちと同じようだ!と言わんばかりに「仲間がいるから!!」と思いを言葉にしていました。そんな表現したいことを言語化することも大切にしていきました。

□ 反省と課題

 人形劇の取り組みは、題材決めから役決め、せりふづくりなどの話し合いがあり、他にもどんな人形の指にするか、目はどうかなどいろいろな場面で話し合い活動がありました。ほぼ毎日のように話し合ってきました。担任一人に対して28人の子どもがどれだけ集中できるか、理解してもらえるのかが日々の課題でもありました。座り方や話し方など工夫したり、給食の食べ始めのときにもう一度全員で確認したりと、子どもたちのその日の集中力や状況によって臨機応変にしてきたつもりですが、子どもたちの気持ちに寄り添えてきたかどうか疑問は残っています。
 また話し合い活動の中で、子どもたちと対話してこれたかどうかという疑問があります。担任の思いや考えで引っ張りすぎてはいなかったか、課題です。

  1. ゆ。
    2009 年 8 月 3 日 20:15 | #1

    「昨年のきりん組での人形劇の取り組みを研究会で発表したいので人形を貸して頂けないでしょうか?」と陽子先生から電話を頂いた時に、どんな発表をするのか?とても興味があり、出来ることなら聞いてみたい!と思っていました。そして今日素晴らしい発表内容を読ませて頂き、昨年のきりん組での取り組みを懐かしく思い出しました。娘は熱を出しながらも「人形を作る日だから休めない」と言った事もありました。毎日毎日、目をキラキラさせながら、人形劇の取り組みについて話をし、時には悩み、時には自信に満ちあふれ練習していました。友達の事を思い、自分の意見をしっかりと伝える・・・そのの人形劇はとても素敵な取り組みですよね。
    クラス会の日にも「昨日は眠れませんでした・・・」と言っているくらい緊張しがちな陽子先生。きっと(かなり)緊張した事でしょう。お疲れさまでした。優しく、子供達に愛情いっぱいの陽子先生と一緒だったからこそ、昨年のきりん組のみんなは頑張って素敵な「かにむかし」を演じる事が出来たのだと思います。ありがとうございました。

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