”もういっかい”2歳児の新学期

2010 年 7 月 26 日

yara-2 この実践記録は、2010年7月24日・25日、伊豆長岡で開かれた第48回全国幼年教育研究集会の「保育園・幼稚園・小学校のつながりと豊かな学び」分科会で、子どものその屋良雅土先生が報告した要旨です。子どものプライバシーに関わるため割愛したところがあります。 

       子どものその(2歳児) 屋良雅土

2歳児12人(男児7 女児5) 全員が新入園児。うち第一子3人。

 「子どものその」のめざす保育
 いま、子どもたちは子どもらしさを失いつつあります。
少子化や地域の崩壊、過熱する「早期教育」など、社会の様々な歪みが子どもたちに重くのしかかっています。子ども集団がなくなり、大人と密着した生活の中で、子どもは「小さな大人」として見られがちです。こうした風潮は、子ども時代の重要性を軽視し、子どもに無理な背伸びをさせているのです。
このような状況に対して、確かな子ども時代を保障し、子どもらしさを取り戻していこうというのが、『子どものその』の保育です。
わたしたちがめざす子ども像は次の通りです。
◎甘えたいときに甘え、安心して遊びながら、子どもらしい興味や積極性、自立心をのばす子ども。
◎何にでも興味をもち、失敗をおそれないで、挑戦しようとする子ども。
◎創る楽しさがわかり、じっくりとりくむ子ども。
◎自然の中で体を動かして遊び、季節の移り変わりや自然の不思議に触れ、豊かな感情や感性を育む子ども。
◎友だちとしゃべりまくって遊び、豊かな話しことばを育て、しっかり自己主張しながら、人とつながって生きていく子ども。
◎集団で遊ぶことの楽しさがわかり、みんなと一緒にやりとげた喜び、感動を共有できる子ども。
◎基本的生活習慣を身につけ、自分でできることに喜びを感じ、遊びや生活にめりはりのある子ども。

 一年間大切にしようと心に決めたこと
 私は2歳児を担任するのは初めてだったので、クラスがスタートする前に1年間大切にしたいことを次のように考えました。
・1年間じゃれつき合って生活していきたい。
 まずは担任との関係作りを。(男の場合は好みがはっきりし易いので、)子どもの様子をみながら少しずつ距離を縮めていきたい。「この先生安心できる」って感じてもらえるように。
 たくさんじゃれあって、担任の体で遊ばせたり、体を使って楽しみたい。リズムも取り入れていきたい。リズムは大きいクラスの姿を見て真似、できてる つもりをたくさん楽しみたい。様子を見てホールで。
 「もう一回!」と言われるような あそびを 繰り返し楽しんでいきたい。
・幼児後期にむけて…
 身辺自立、あそび、ことば の土台作りを大切にしていきたいです。「じぶんで」「こうありたい」「こうしてみたい」というような主体的な思いや意志を大事に、子どもたちの要求にたくさん応えていきたいです。たのしい うれしい おいしい つめたい きもちいい など生活の中でいろいろなことを感じ、担任も一緒になって表現して、たくさんの感覚や感触を楽しみたいです。また、生活の中での子どもの「なんで?」や、「ダメ」「イヤだ」にどんな返しだと受け入れられやすいのか、興味津々です。
・2歳の自我を大切に…
 自分で考え、自分で決め、自分で行動していく‘自我’ を大事に、保育の中で子どもたちの自己主張をどれだけ保障できるかを課題にしたいです。2歳児の自我に、担任も同じような感覚で対抗してみたいです。(が、時には冷静かつ巧みに。)

 クラスの物語
・4月の様子

 ほとんどの子が不安な様子で登園し、抱っこするのを嫌がる子もいて、担任の近くで過ごすことが多く、担任は保育室か目の前の砂場で過ごし、泣いている子をみながら少しでも遊んできました。朝の集まりでは、何を出しても反応が薄かったが、絵本・紙芝居・ペープサートは「いない いない ばあ」、歌は「ちゅうりっぷ」と、同じことを繰り返しやる中で、覚える子が出てきて少しずつ興味がつかめてきました。
 だんだん楽しさがわかってくると、「もういっかい」と言う子が出てきて、「いいよ。じゃあもう一回読むね。」と、読んであげたり、同じ話でも形が違うので、「おおきいの」と言われれば大型紙芝居、「ちいさいの」は絵本、と子どもたちからリクエストも出てきて、それに応えるようにしてきました。

・「いない いない ばあ」
最初は、単純に簡単な話と思って導入した「いない いない ばあ」でした。絵本ではなくペープサートにすることで、歌をうたって動きも出て興味に繋がるかと思っていました。結果、いい形で子どもたちの中に入っていったのですが、担任としては、同じ話を繰り返すことにこだわりが出てもきました。それは、この集団が4月から始まったので、幼い時期のあそびをクラスで共有するのがいいのでは、と考えたからです。

・「しゅっぱつ しんこう」 
 4月16日(金)朝の集まりをするのに保育室で広げていたゴザをたたもうとすると、子どもがピョンと乗ってきました。朝の始まり云々はやっぱり「いやだ」なんだろうなぁと思い、「電車が発車しまーす。みなさーん乗ってくださーい。」と、声をかけてみると、「はーい」なんて、B子を含む4人の子たちが乗ってきました。
 「それでは、出発しまーす。しゅっぱーつ しんこーう!」なんて声をかけて腕を上げると、B子も真似してくれて、ゴザを引っ張って保育室を回ると大喜びで、それを見た、A男も乗り込んできました。実は、前日にB子が「コレよんで」と持ってきた絵本が「しゅっぱつ しんこう」で、「いないいないばあ」以外で初めての絵本でした。少し長かったので多少省きながら「特急電車しゅっぱーつ しんこーう」のところだけ手をあげて盛り上げていたのです。それをやはり、B子は真似していました。
 この遊びが楽しくなってきてから、朝は毎回「ねぇ でんしゃ やってー」と言う声がでてきて、普段の生活でも「しゅっぱーつ しんこーう」とトイレに行ったり、違う場所に行く時はこのことばで盛り上がるようになってきました。

もう いいかい
 5月はようやくじゃれつきあそびを少しずつ楽しめるようになってきました。(くすぐっても笑わなかった子・・・A男を含む4人)くすぐっても笑わなかった子たちも、布団の上でじゃれ合えるようになり、担任にどんどん向かってくる子どもたちになってきました。
 絵本では「いない いない ばあ」を読むと、子どもたちも顔を隠して楽しむ姿が少しずつみられるようになり、ついに5月20日「もういいかいって言って」と、B子がいいました。
担「もういいかーい」B「まーだだよー」
この時の隠れ方が、すごくかわいくて、目の前で顔を隠しているだけなんです。「もういいかーい」「まーだだよー」・・・
いつまで経っても「もういいよー」は出てこないので、「あれ?Bちゃんいないなー。どこだー?あーBちゃん 見ーつけた!」と、手をどけて顔が見えると、抱きついてくすぐってと遊びました。すると、それを見ていた子たちも真似して仲間になりました。繰り返しているうちに、隠れるところが今度は布団の上にうつ伏せになって、(やっぱり手はいないいないポーズ)「まーだだよー」となってきました。
 6月、このあそびは外にまで持ち出されるようになり、別に隠れてはいないけど、誰かを見つけ、「あっ 〇〇くん見ーっけ!」と担任が言うと喜び、ドカンに入って行く子を見つけ、「あれ?〇〇くんがいないいなーい」なんて言うと、ボクもワタシもと言わんばかりに、続々とドカンに入っていきます。そして出てくる時は「ばぁ!」なんです。見つけて欲しいし、担任とじゃれつくのが楽しい感じです。きっと隠れているつもりもないのでしょう。6月、このあそびはみんなが楽しめるあそびの一つになりました。
 「いない いない ばあ」が発展すると、こういう あそび に繋がるんだなぁと思いました。幼い頃に経験するあそびをもう一度、今度は新しい集団で経験すると、その集団であそびを発展させることができることがわかりました。今は、「いない いないやって!」と言ってますが、「かくれんぼ しよう!」という日が楽しみです。

・リズムあそび
 2歳児から5歳児まで、ピアノの音にあわせて動物などの動き真似ながら、よく動くしなやかな体を獲得できるように取り組んでいます。
 初めて聞く音、初めて見る動き。2歳児の子たちに担任がやるのをクラスで見せても、最初は興味を示しませんでしたが、3歳児クラスの子たちがホールで遊んでいるところに連れて行って、一緒にやることで覚えてきました。見る・聞くが本当に上手なんだなと思います。ホールでやるとクラスに戻ってから、さっきはやらなかった子たちまでやり始めていました。それからは、毎朝の集まりの前には「うさぎ」とか、「おがわのメダカー」と、始まったり、普段遊んでいる時も急にやり始めたり、クラスではやらないのにいきなり下駄箱で跳ね出す子がいたり、好きな活動の一つになりました。
 6月10日、給食を食べ終えると、ホールが空いている時はホールでリズムをやる日が増えてきて、この日も「リズムやりたーい」と言われ、「いいよ!」と担任が返事したとたん、タタタタタ~っと走っていってしまいました。ところがちょうど年長組がホールでリズムをやっていたのです。(このとき、担任はムシャムシャ食べてました。)遠くに見える子どもたちの様子を「あちゃー、どうするかなー」と見てました。一緒に混ざってやってなければいいけど…。急いで食べて向かった時には、ちょうど年長児が出てくるところでした。そして、年長担任が「ひよこさん、かわいいねー。チョコンと座って上手に見てたよー。」と教えてくれました。見ていられたのかと喜んでいる担任をよそに、「ねえ、 はやくやろうよー」と、子どもたちに急かされてしまいました。それで、いつものようにやり始めたのですが、少しすると、「おはな やってー」と言うのです。
 おはな?そんなリズムはありません。でも、子どもたちは(年長児の姿を見て)分かっているようで、手をつなぎ始めると他の子も一緒になって手を繋いで輪になってました。もしかして糸車?
 糸車は集団リズムの一つで、糸車のようにグルグル回る動きを含む他、3パターンほどの動きがあり、とても高度なものです。恐らくそれだろうと思い、ピアノを弾いてみると、始まりました。よく見てるものだなと非常に関心したのですが、ただの真似では終わりませんでした。「もういっかい」といつものようにやっていると、たまたま転んだ子が…いつもなら押し合いへし合いはトラブルの始まりです。でも、この時のみんなの顔は「たのしいこと みーつけた!」と思わせる輝きで、「もういっかい!」と、手をつないでは転ぶのを楽しみ始めました。

 はじめにリズムのねらいを書きましたが、2歳児にとってはそれよりも楽しいかどうかが大事な気がします。見ておもしろそうだからやってみたい。やってみておもしろいからまたやりたい。その気持ちが、体を動かす心地良さやおもしろさになっていると思います。(本当にリズムができるようになるのは5歳児ですし。)だから無理にはやらせません。見てるだけでも立派な参加です。「やりたい!」と思ったときには、体が動いてしまいます。
 全身運動はリズムの他にも子どものそのの周りには自然がたくさんあります。散歩しながら変化のある地面を歩いたり、走ったり、転げ回って楽しみながら賢い体が育っていきます。
 また、園内には遊ぶたびにどんどん「やってみたい!」と思うような、自然にあふれた遊び場があります。園内で遊ぶことを楽しむのと、リズムが盛り上がるのがちょうど重なるようにもなっていました。動けるようになっていく自分の体を試すように。担任はそんな子どもたちの「やってみたい!」「もういっかい!」をたっぷり満喫させたのですが、その結果、歩行・走行がとても安定してきたように感じます。それはまた、もっと遊びたい意欲に繋がり、あそびを発展させる原動力にもなると思っています。

追記 7月の様子…
 6月の中旬位から、クラスの中で少しずつ「〇〇ちゃんと一緒がいい」という子が出てきました。昼寝を嫌がっていた子が「〇〇ちゃんといっしょにねる」と、布団についたり、給食を一緒に食べる子がいたり、トイレに一緒に向かったりという姿がポツリポツリ出始めました。
 その頃クラスでは、「あそびましょ」(松谷みよ子)が大人気で、絵本の中身を真似するのも楽しみつつ、読み始める前に担任が、「〇〇ちゃん あそびましょ」とふざけて声をかけたのがツボにはまり、全員の名前を呼んでから読み始めるのが一つの流れになりました。このとき、子どもたちの返しの言葉は「だめー」や、ふざけに対して「ちげっ」とよく言っていましたが、7月には「いいよー」がとても増えてきました。
 そして今、子どもたち発子どもたち行きの「いれてー」はどんどん広まり、「だめー」よりも「いいよー」が増え、子ども同士の関わりがとても増えています。

 2歳児を担任して
 まだまだ年度の途中ですが、これまでのクラスを振り返ってみると、資料などで一般的な2歳児の姿を想像することはできましたが、実際に子どもたちと接する中で、今何を子どもたちが求め、それにはどんな保育が応えられるのだろうか?と手探りで毎日を過ごしている自分がいました。初めての2歳児ということで見通しきれないことでの不安がありましたが、目の前にいる子どもたちと生活していると毎日がぶっつけ本番のようで、これは楽しめる、これは食いつかないとか、この言葉はわかるんだなぁというようなことを肌で感じることができました。その日の気分によっても違いました。こういうところが本当に難しくもありますが、生きていることを実感する場面でもあります。わからないことが逆によかったのかもしれません。
 「イヤダ」「ダメ」にどんな返しがストンとわかるのかなど考えていましたが、「イヤダ」「ダメ」に対しては何を言っても「イヤダ」「ダメ」でした。対抗しても平行線でした。結局「イヤ」なんだから嫌でいいんだ、「ダメ」ならダメでいいんだなと思いました。今はたっぷりこの子たちの姿を受け入れてあげると、いつか「ジブンデ!」と活動していくこともわかりました。
 〇〇して△△する2歳児。わたしたち大人は△△にご褒美的な何かをもっていきたくなりますが、この子たちにはそれが通じず、〇〇を優先しがちです。でも、それを保障してあげるとちゃんと次に移れることもわかりました。食事ではデザートも先に食べちゃうし。そのあとに食事も食べます。
 子どもたちのことばに「いいよ」が加わってきたのも、「いいよ」とたくさん受け入れられてきたからと思いたいです。「いいよ」と他を受け入れることができるようになれば、次は子どもたちの放つ要求を受け入れ、「でもね・・・」という返しがこの先できるようになるのでは、と考えています。
 これから子ども同士の関係が増えれば、言葉が足らずにトラブルになってしまうことはあると思います。でもその今を否定せずに、どうしたらいい方向に向かうのかをうまく示すことができれば、、、行動は言葉の前兆ですし。


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