運動会の取り組みを通して育つもの

2009 年 7 月 13 日

s-1「自分の一番の力だよね」
     ―運動会の取り組みを通して育つもの
            らいおん組担任 北嶋しのぶ

 
 
 ■らいおん組の子どもたち
 私が担任しているらいおん組は年長組で29名(男児18名・女児11名)の子どもたちです。年長は基本的に一人担任制です。4月当初は、朝の始まりでもなかなか集まらず、人の話も聞かず、やりたいことをやっていたり、フラフラーとしていたりと落ち着きませんでした。また年中時代から課題だった身の回りのことができない子が多く「やって~やって~」と人に頼りがちでした。でも、子どもたちはとてもかわいらしく、ふざけっこやままごと、ドロケイなどの集団遊びや外遊びが大好きです。男女入り混じって遊ぶことができ、クラスで何かやるというと、ぐっと団結し、やる気満々の子どもたちです。そんな子どもたちのやりたい気持ちを保障しながらも、日々の生活にメリハリを付ける工夫をしたり、一つ一つの行事を子どもたちと楽しみながらだんだんまとまっていきました。そして、今回の運動会の活動で、よりクラスの関係も深まっていけばいいなあと思っていました。

 ■運動会で取り組んだ種目
 子どものそのの年長組は次のような種目に、毎年取り組んでいます。
 跳び箱…3段横、4段横、4段縦の3種類の中から、子どもが自分で選んで跳ぶ。(当日は2回跳ぶ)
 はんとう棒…垂直に立てた竹の棒にタンバリンをぶら下げておき、自分のたたける高さにぶら下がっているタンバリンを選んで登っていく。
 リレー…Aグループ、Bグループ2つに分け4クラスで競争する。
 ソーラン節…お父さんと一緒に作った腰紐と、お母さんに作ってもらったはっぴを着て最後に踊る。
         小さい組にとっては、憧れのソーラン節でもある。(伝統的な漁師の踊り)
 荒馬踊り…運動会のオープニングで園庭を二つ跳びと縦ギャロップでぐるぐる回り、開会を告げる。
 どれをとっても、小さい組には憧れの種目であり、年長組の子どもたちは、緊張と誇りを持って当日の朝を迎えるのです。

 ■運動会までの跳び箱の取り組みの流れ
 8月29日(夏季保育中)~  先生や友だちの背中で馬跳びなどして遊ぶ
 9月 4日 お父さん参観   お父さんに馬跳びをやってもらい、子どもたちに憧れを持たせる。
        お父さんに馬になってもらい、子どもが跳んでいく。
 9月 6日~ 跳び箱の練習  初めは跳び箱を出さず、踏み切り台とマットのみ。両足で踏み切る練
        習を行う。(クラスごとに室内で)
 9月 8日~ 跳び箱を出す。初めは3段横から。数日間かけて3段横、3段縦、4段横、4段縦を行っ
        ていく。各クラスのペースで。
 9月20日~ 4クラス合同練習。当日まで、ほかの競技と並行しながらほぼ毎日行った。(園庭で)
 9月26日 運動会総練習
 10月2日 運動会

 ■クラスの取り組み
 取り組みを始めるときに「もうすぐ運動会があるよ。今度で、そのでの運動会は終わりだよ。そのの運動会では、みんなが小さい組のときから元気に散歩に行ったり遊んだりして、こんなこともできるようになったよって、見せてあげるんだ」と子どもたちに話しました。
 担任としては、日々の生活での体つくりや山登り・合宿で乗り越えた集団の力を、この運動会の活動でつなげていき、「ちょっと難しいけどやってみよう!」「できるようになりたい!」の気持ちに持っていけるように…と思っていました。
s-2 担任 「大きい組は、リレーとはんとう棒と跳び箱とソーラン節の4つもあるよ。」
 子どもたち 「やったー!」 「エーッ」「できないよう」
 担任 「そうだよね。できないのはそうだよ、はじめてやるんだもん。でもやってみようよ。みんなたくさん遊んでるし、挑戦してるときっとできるようになるかもよ。私もみんなとがんばるからね」
 こんなやり取りがあり、その午後の遊びのときKちゃんとTちゃんが話しかけてきました。
 二人 「うちのお兄ちゃんやお姉ちゃんも、苦手なものがあったよ」
 担任 「でもみんな最後には本当にかっこよくて、すてきだったね」
 二人 「うん。みんな全力でがんばればいいんだよね」
 のんびり屋の二人が、こんなことを言ったのは少し意外でした。
 
 
 ■跳び箱をはじめる
 最初に取り組んだときは、跳べる子と跳べない子がはっきり分かれました。また、跳べないと解っていて最初からやらなかったり、わざとふざけていた子もいました。初めは「跳べないから跳ばない」子も保障しながら、取り組んでいる子に声かけをしました。そんな中、跳べないK君を、T君とM君が笑ったのです。その日の帰りの会で子どもたちに話しました。
 担任 「今日はみんな初めてやったのにすごかったね。跳べる子もいたね。でも跳べなくてもどんどん挑戦する子もいて、びっくり。みんなこんなにがんばれるんだって驚いたよ。でもひとつ残念だったのは、一生懸命やってる友達を、跳べないからって笑った子がいたよ。それってどうなのかな」
 子どもたち 「いい気分じゃなーい」
 担任 「そうだよね。先生はチャレンジしていくのってすごく素敵だと思う。だって初めてやったんだものね。K君はもう跳べないからやらないじゃなくて、何度も何度もやってたよ。そうやってがんばってると、絶対うまくなるよ。」
 K君はこれまで、体の力がダラーンと抜けた感じで、あまり意欲的ではなく、ふらふらしている子どもでした。意見を言うこともあまりなく、できなくても「エヘへへ」とふざけてすり抜けていました。しかし、この笑われたのがきっかけかどうか解りませんが、跳び箱の取り組みは真っ先に取り組んでいて、いつも一番最後まで練習し後片付けまでしていました。帰りのバスが遅いときは、毎日必ず3回跳んで帰りました。
 その結果、3段横をクリアしたら、4段縦まで跳べてしまいました。帰りの会で、毎日一人ひとりにスポットを当ててがんばりを伝えていたのですが、K君の姿を話すとみんなが拍手してくれ、さらに自信がついていきました。

s-3 ■「自分の決めたように跳びな」
 ところがそのK君が、運動会の一週間前から4段縦が急に跳べなくなってしまいました。
 でも毎日4段縦を練習し続けるK君。帰りの会で仲良しのA君がこう言いました。
 A君 「Kはいま、4段縦が跳べなくなっているけど、がんばってやっているんだよ」
 そして、K君の練習に合わせて一緒に練習しているうちに、A君は4段横が跳べるようになったのです。
 A君 「Kありがとな。おまえのおかげだよ。」と、言ったのでした。
 
 どの段を跳ぶか決める日のこと、4段縦を完璧に跳べているM君が4段横にしたいと言ってきました。M君は、何でもできるのですが、心配性なところがある子です。そこで少し背中を押すことにしました。
 担任 「M、自信を持ちな!Mは自信もっていいと思うよ。でもどうするかは、自分で決めていいんだよ」
 K君も縦にするか横にするか迷っていました。帰りに二人を呼んで聞いてみました。
 M君 「4段縦でいく!」
 K君 「・・・・・」
 M君 「K、自分の決めたように跳びな」
 この言葉でK君の迷いは吹っ切れ、4段横に決定しました。
 
 
 ■「これでいいの?」
 K君たちのように前向きに取り組む子どももいれば、気持ちが後ろ向きの子どももいました。Y君は初め4段が跳べていたのですが、スランプになってからまったく練習しなくなりました。R君は最初から跳べなくてもいいやという感じで、1,2回やるとふらーと遊びに行ってました。二人ともなかなか跳び箱に向う気持ちになっていきません。このままで終わらせたくない、もうちょっと跳び箱に向う気持ちを持たせたいなと考え、遊んでる二人に声をかけました。
 担任  「うわあ、二人とも3段跳べるようになっちゃったんだ。見せてよ」
 二人  「・・・・」(えっという顔)
 担任  「二人とも運動会はこれでいいの?二人が、『跳べなくてもいい、これを家の人に見せる』ならいいんだけど」
 二人  「やだ」
 担任  「でもやらないんじゃ、できるようにはならないよね」
 しぶしぶやりだす二人。でも何度も練習するうちに、二人とも跳べるようになり、R君は4段まで跳べたのです。給食の時間に自分から「ありがとう」と言いに来ました。
 今回は二人とも、練習する中で跳べるようになり、跳び箱に向う気持ちももてたと思いますが、そうでなければやらせていたということになってしまったのでしょうか。やりたくないのをやる気にさせるのはなかなか難しいです。 
 

s-4  ■リレーの取り組み
 年中時代からの憧れのリレーです。リレーごっこを楽しんできた子どもたちですが、中には走ることにプレッシャーを感じる子もいます。Aちゃんは、緊張が強く、少しずつ自分を出せるようになってきましたが、まだ心配なことは避けたいのです。またB君、R君はわざとふざけて走り、みんなに怒られていました。
 リレーのチーム分けのとき、Aちゃんが「おなかが痛い、やりたくない」と涙を流しました。みんなの中で走ることが不安だったのです。T君とA君が「俺たちがAを真ん中に入れてあげれば平気だよ」と言ってくれてチーム分けができました。帰りの会のとき、Aちゃんの気持ちをみんなに投げかけてみました。
 
 担任 「今日のAちゃんは、リレーで走るとき遅かったらどうしようって心配だったんだって」
 女の子たち 「私も遅いからなあ」
 担任 「そうだよね。心配な子もいるよね。でもリレーって勝ち負けや速い遅いが大事なんじゃないんだよ。リレーは大きい組でないとできないんだよ。一本のバトンをみんなでつなげて走るんだよ。これは、小さい組だとバトンをずっと持っていたいと言ったり、順番で走るなんてできないからね」
 子どもたち 「大きい組は待ってられるしね」
 担任 「でも何でバトンなんだろう」
 子どもたち 「どのチームか分かるからじゃない」「つなげて走るから、必要なんじゃない」
 担任 「そうだよね。じゃそのバトンをふざけてポーンて投げて走っていいのかな」
 子どもたち 「だめだよ」
 担任 「でもAちゃんやMちゃん、Nちゃんたちみたいに遅いからやだな―って子もいるよね。でも、みんなの持ってる一番のスピードで走るといいと思うよ。」
 子どもたち 「それって全力ってこと」
 担任 「そうだね」
 

  この後バトンの渡し練習中、女の子の中から、次にバトンをもらう子が「○○がんばれ、ここだよ」と声をかけるといいと提案がありました。「Tちゃんにがんばれって言ってもらうと、全力の力が出るもんね」ということで、運動会当日もらいおん組はしっかり次の子の名前と「ここだよー」を叫びました。結果は、 Aチーム3位、Bチーム1位でした。どの子もとっていい顔で走っていました。AちゃんもT君やA君のリードのおかげでのびのび走れました。
 ふざけてばかりいたR君とB君は、練習の4クラス対抗リレーのときに、みんなで約束して行ったのにふざけて走り、クラスのみんなから叱られました。帰りの会のときに
s-5 B君 「ふざけているのは、遅いのがいやだから」と泣きました。すると次々に
 女の子たち「 あたしだって遅くていやなんだよ」 「だけど自分の一番の力で走れば、平気だよ」
 「自分の一番の力」が合言葉になったらいおん組。B君も総練習からしっかり走り始め、「きょうのBはかっこよかったよ」とみんなに褒められました。
 一方、R君はただただふざけていたのですが、やっぱりみんながんばって走ってるのに一人ふざけているのはおかしいと言われ、総練習ではしっかりやりました。
 子どもたち 「やればできるじゃん!」
 担任 「今日のR君は顔も真剣でかっこよかったよ」
 R君 「おれ速かった?すごかった?」
 と何度も確認しては喜んでいました。

 ■運動会を終えて
 今年は運動会を終えてからもすぐ終わりにせず、今も跳び箱に取り組んでいます。子どもたちはさらに力をつけて今まで跳べなかった段をクリアしています。そして失敗してもめげずに互いに笑いあいながら挑戦しています。跳び箱を跳ぶことが楽しくて仕方がないといった様子です。そして跳べなかった友達が跳べたとき自分のことのように喜んでいます。友達同士のつながりが、より深くなったなあと感じています。らいおん組では、「自分の一番の力」が子どもたちの中で何かと話題になっています。運動会で終わりというのではなく、いつか跳べるようになるかなという気持ちで取り組んでいる子どもたちの姿や笑顔を見て、これぞ輝く笑顔だねと、4クラスの担任で思っています。
 

  ■運動会の取り組みで大切にしたことと課題
 自然の中で体と心を使って遊ぶなかで培ってきた力を土台にしながら、ちょっと難しいことに挑戦しようという取り組みのひとつが「跳び箱」です。跳び箱は、気持ちも体も前に出ないと跳べません。勇気を出して挑戦していくのです。自分の体と心の弱さをさらけ出してしまうし、失敗しても失敗してもへこたれずに向っていく強さもはっきり見せてくれます。そういう一人ひとりの心の葛藤や頑張りを、私たちは毎日いろんな場面で見つけ、感じ取り、子どもたちに伝えていくことを大切にしています。すると、子どもたちは「跳べるか、跳べないか」ということよりも「挑戦する気持ち」を実感して取り組み、たくさんの子どもが跳べるようになりました。
 
s-6 また、友達同士のがんばりを認め合う関係もできてきて、「~ちゃんは今日はすごかった」「跳べてうれしいね」と言ったやり取りもずいぶんありました。また、仲良しグループで、跳べる子が跳べない子の前をリズミカルに跳び続け、とうとう跳ばせてしまうこともありました。
 初めはスムーズに跳べていた子が、途中で跳べなくなることもあります。恐怖心がでてくるのですが、友だちがこつこつがんばる姿を見て、また一生懸命に挑戦していきます。そうやって自分の力で乗り越えていくのは、大きな自信になっていきます。
 また、運動会当日に、どの段を跳ぶのかは子どもが自分で決めます。アドバイスはしても子どもの意思を尊重します。子どもたちは、「4段横の方が、体がふわっと跳べるから4段横にする」のように、自分で考え判断する力が育ってきています。
 もうひとつ、今回実践報告ではふれませんでしたが、ソーラン節の取り組みは、長い伝統の中で、子どもたちの憧れになっています。海のない埼玉で、漁師の踊りといってもピンとこない気もしますが、一つ一つの踊りの意味を確かめながら踊るのです。そして、かっこよく踊る先生やかつての年長さんの姿をイメージして一人ひとりがソーラン節の世界に浸っています。その姿に今の小さい組たちも憧れで見入っているのです。こういうイメージを膨らませた活動も大切にしています。

 課題としては、担任が引っ張りすぎたのではないかということがあります。「練習する子はすごい!(そのとおりではあるが)」になってしまい、もっと、やらない子の気持ちをていねいに聞いてあげたり、その気持ちをみんなの中に返していくといった話し合いをしても良かったのではと思っています。また、跳べる子の話をもっと聞くなどして「跳べる喜び」や「跳び方」を子どもの言葉を通して伝えていければよかった・・・と思っています。 

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